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知識・ノウハウ(為替)

日銀はなぜ2%のインフレを目標とするのか?理由は円高トレンド是正と財政再建

2016年9月7日

日銀が掲げる2%のインフレ目標。

2%という数字には明確な理由があります。

下記では「なぜ、日銀がインフレ目標を2%に設定しているか」について説明していきます。

なぜ日銀が2%のインフレ(物価上昇)を目標としているか説明できますか?

日銀が2%のインフレ目標を定めたのが2013年1月の金融政策決定会合ですので、既にかなり時間が経過しています。

日銀がインフレ目標で参照しているコアCPI(消費者物価指数 <生鮮食品を除く総合>)は1%前後まで上昇した時期もありましたが、その後、低下しています。

今のところ大きな政策効果は出ていませんが、マイナス金利導入やETF買入れ増額等、追加の金融緩和を積極的に行い目標達成に向けて邁進中です。

では、実際に2%のインフレが実現できた場合、具体的にどのような変化があるのでしょうか?

言い換えますと日銀はなぜ2%のインフレを目標としているのでしょうか?

一般の人であれば「2%のインフレになるということは購買活動も活発になっており、景気も良くなっているはず」という答えでも良いと思いますが、もう一歩レベルアップしたい方はこれでは少し物足りません。

2%のインフレは様々な効果をもたらすと思いますが、その中でも日銀が本当に重要視しているのは次の2つです。

  1. 円高トレンドのストップ(購買力平価の円高シフトの防止、実質金利の低下)
  2. 財政再建(実質債務の減少、公的年金の実質支給額の減少)

円高が是背されれば企業業績は改善し、株価の上昇や個人消費の拡大につながります。

財政に関しては国の債務残高がGDPの約2.5倍と断トツで世界ワースト1であり、早急な改善が必要です。

この2点について詳しく解説します。

まずは円高トレンドのストップからです。

2%のインフレは円高トレンドをストップさせることができる

2%のインフレによる円高防止には2つのポイントがあります。

  • 購買力平価の円高シフトの防止
  • 実質金利の低下

下記でそれぞれ解説していきます。

購買力平価の円高シフトの防止

インフレ率を欧米並みの水準にする事で、購買力平価の円高シフトをストップさせるということです。

購買力平価とドル円レート

  • 画像が小さくて見にくい場合はこちらのサイトで確認してください:国際通貨研究所

(これで理解できる方はこの後の説明はスキップしていただいて結構です。次項目の「実質金利を低下させる」からご覧ください。)

購買力平価の詳しい説明は下記リンク先をご覧いただければと思いますが、簡単に説明すると購買力平価は「一物一価」となるように為替レートで調整されるというものです。(1ドル=100円、米国インフレ率2%、日本インフレ率0%の場合、1年後2%円高になることで一物一価になります)

以前から日本以外の多くの先進国では中央銀行がインフレ目標(インフレターゲット)を公表しています。

米国のFRB、欧州のECBは共にインフレ目標を2%としており、他の多くの国でも2%前後となっています。

日本は長期間デフレが続いており、常に「外国のインフレ率>日本のインフレ率」という状態が続いてきました。

これが長期の円高トレンドの大きな要因となっています。

具体的に説明すると、米国のインフレ率が2%、日本のインフレ率が0%とすると、ドル/円の購買力平価が毎年2%ずつ円高方向にシフトしていきます。

つまり、購買力平価の観点では、相対的にインフレ率が低い通貨が強くなります。

これをストップさせるため、日銀は日本も2%のインフレ率に持っていき、購買力平価が少なくとも円高トレンドにならないようにしようとしています。

実際に米国と欧州はインフレ率の格差がほとんどないため、ドル/ユーロの為替レートは、どちらか一方向にトレンドを持ってシフトしていくということはありません。

その時々で上下はあるもの長期的には1ユーロ=1.2ドル程度を中心値にレンジで推移しています。

実質金利を低下させる

実質金利とは「名目金利-インフレ率」です。

実質金利は短中期の為替レートに大きく影響を与えます。

インフレ率の上昇は実質金利を低下させます。

逆に日銀が低金利政策を行っても、インフレ率が低いと実質金利は低下しません。

例えばドル円レートの場合、日米の実質金利差が短中期の為替レートに大きく影響を与えます。

よって、上記の「購買力平価」と同様に、インフレ率の上昇は実質金利を低下させることで円高をストップする要因となります。

日本全体でみると輸出企業の比率が高いため、円高は企業業績を悪化させ、円安は企業業績を好転させます。

実際、円高になると日経平均も下落し、円安が進むと上昇します。

アベノミクスが始まって日経平均が8000円前後から20,000円超まで上昇しましたが、かなりの部分は円安で説明できるといわれています。

インフレ率を他国並みにし、購買力平価の円高シフトを止めることは、長期トレンドでの円高をストップさせることになりますので、日本の景気や株価に大きくプラスになります。

また、実質金利の低下により短中期でも円高になりにくい環境が期待できます。

2%のインフレは財政を改善させる

2%のインフレによる財政再建も2つのポイントがあります。

  • 実質債務の減少
  • マクロ経済スライドによる公的年金の実質支給額の減少

下記でそれぞれ解説していきます。

実質債務の減少

1つ目はかなり一般的な話ですが「インフレによる実質負債の減少」です。

これは個人や企業でも同じですが、物価が上昇すると、既にある借入金は実質的に減少するということです。

仮に2%の物価上昇が10年間続くと1.02の10乗ですので物価は約22%上昇します。借入金は物価が上昇しても変化しませんので、実質的に22%減少したことになります。

10年スパンで見るとかなり大きな効果となります。

公的債務は現在約1,200兆円ありますので、実質的に約250兆円以上の削減効果となります。

マクロ経済スライドによる公的年金の実質支給額の減少

2つ目は「公的年金の支給額が実質的に減少する」ということです。

老後に受け取る公的年金は少子高齢化の影響もあり財政上大きな圧迫要因となっています。

しかし年金の支給額を減額することは選挙にも大きく影響するため政府としてもなかなかできません。

そこで2004年から「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されました。

マクロ経済スライドは「現役人口の減少」や「平均余命の伸び」に合わせて年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。

それまでは「物価スライド」といって年金の支給額はインフレ率に連動していたのですが、2004年からは「インフレ率-スライド調整率」に連動するようになりました。

スライド調整率はその年によって変化しますが、例えば2015年は0.9%の調整率となりました。

これにより実質的な年金支給額は0.9%減額されていることになります。

仮にこれが10年続くと実質的に約10%の年金支給額の減額となります。

現在の公的年金支給額は年間約50兆円ですので単純計算ですが、年間約5兆円の財政収支改善に貢献します。

20年後には、年間10兆円の効果となります。

現在、日本の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は20兆円程度の赤字です。

巷ではプライマリーバランスの黒字化は100%無理と言われています。

しかし消費税を5%上げると税収は10兆円増え、上記のインフレによる実質的な年金支給額の減額を加えると、必ずしも無理とは言い切れないのではないでしょうか?

そういう意味では財政再建においても2%程度のインフレ率がちょうど良い水準と言えます。

最後に他国のインフレ目標を掲載します。

主要国のインフレ目標一覧

こちらでは主要国のインフレ目標を一覧で掲載します。2020年1月時点のデータです。

主要国のインフレ目標

先進国は概ね2%前後のインフレ目標を導入しています。

主要先進国の中でインフレ目標の導入は日本が最も遅く、2013年1月に導入が決定されました。

日銀がインフレ目標で参照しているのはコアCPI(消費者物価指数<生鮮食品を除く総合>)です。

他国でもコアCPIを参照しているケースが多いですが、日本以外の国のコアCPIはエネルギー価格の変動も除いた指数です。

日本のコアコアCPI(消費者物価指数<生鮮食品及びエネルギーを除く総合>)と同様のデータですので、この点は注意が必要です。

日本も本来はコアコアCPIにすべきだと思います。

先進国のインフレ目標はあまり変更されませんが、新興国のインフレ目標は経済環境の変化に応じて変更されることがあります。

まとめ

現状、日本が本当にインフレになると思っている人はそれほどいないのではないでしょうか?

しかし、わずか2%のインフレは上記のとおり、日本を劇的に変化させます。

為替レートが安定することで、企業業績は向上し、所得は増え、株価は大幅に上がります。

財政問題も解決させることができます。

ただ、そのためには物価上昇(インフレ)が必要ですので、日銀には結果が出るまで頑張ってもらう必要があります。頑張れ日銀!



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