こちらのページでは「スイスフラン」の長期チャートと変動要因を掲載しています。
スイスは永世中立国で経済も安定していることから、有事に買われやすい逃避先通貨として認識されています。
経常黒字・低インフレ率・高水準の外貨準備高等、日本円と似たイメージの通貨です。
ちなみにスイスフランはCHFと表記されますが、これはスイスのラテン語国名の「Confoederatio Helvetica(コンフェデラチオ・ヘルベチカ)」の頭文字CHとFranc(フラン)の頭文字Fを合わせたものです。
それではまず、円/スイスフランとスイスフラン/ドルの長期チャートから掲載します。変動要因は箇条書きで掲載しています。(下段の方では10年ごとに区切ったチャートを掲載し、変動要因を細かく掲載しています)
スイスフラン(CHF)レート長期推移
- 「経常黒字・低インフレ・高水準の外貨準備高」等の影響により、長期的にスイスフランは対米ドルで大幅に上昇した。
- 1971年3月に1ドル=4.3スイスフランであったが2011年8月の1ドル=0.71スイスフランの高値まで上昇した
- 円/ドルレートも上記の期間で1ドル=360円から75円まで上昇(円高)しているため、円/スイスフランの為替レートは一定のレンジでの推移となっている。(つまり長期では円とスイスフランは共に大きく上昇した)
- 円/スイスフランレートは1スイスフラン=60円~160円のレンジで推移した
スイスフラン(CHF)レート推移と変動要因(1970年代)
- スイスフランは1973年に完全変動相場制に移行した
- スイスフラン/ドルレートは1971年3月の1ドル=4.3スイスフランから1978年9月の1ドル=1.5スイスフランまで大幅に上昇した
- この期間は米国の貿易赤字の拡大で米ドルが下落し、円(JPY)も対米ドルで1ドル=360円から180円まで大きく上昇しているが、スイスフランの米ドルに対する上昇幅はどの主要通貨よりも大きなものになった
- 1970年代は2度のオイルショックが発生し、インフレ率や経済成長率が不安定な時期であったが、スイスはインフレ率が概ね3%以下で安定し、景気も回復傾向であったことでスイスフランが大幅に買われた
- 過度なスイスフラン高による景気後退を懸念したスイス国立銀行はスイスフラン高をけん制する発言を繰り返した
スイスフラン(CHF)レート推移と変動要因(1980年代)
- 1980年代前半のスイスフランは対米ドルで下落しているが、これはスイスフランの要因よりも米ドルの要因が大きいと考えられる
- 1980年代前半の米国は高いインフレ率に悩まされ、政策金利を大幅に引き上げていた。FFレートは10%~20%の水準で推移しており、この高金利政策が海外からの資金を呼び込み、多くの通貨に対して米ドル高となっていた
- 1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルでG5が開催され、プラザ合意が成立し、これによりドル高は止まり、ドル安トレンドが形成された
- スイスフランも1985年3月の1ドル=2.9スイスフランを安値に再度、スイスフラン高がすすみ、1988年3月には1ドル= 1.3スイスフランまで上昇した
スイスフラン(CHF)レート推移と変動要因(1990年代)
- 1990年代のスイスフランは1980年代までと比較して安定的な動きとなり、1ドル=1.1スイスフラン~1.6スイスフランのレンジで推移した
- 円/ドルレートと同様に1995年にスイスフランも高値を付けているが、これは貿易赤字の拡大による米ドル安が大きな要因と考えられる
- 1998年8月のロシア危機をきっかけにスイスフラン高が進行しているが、これは円/ドルレートと同じ動きで、世界的にリスクオフの状況になる中、レバレッジ解消から円と同様に低金利通貨であったスイスフランの買戻しが発生した
スイスフラン(CHF)レート推移と変動要因(2000年代)
- 円/スイスフランは2000年9月に1スイスフラン=60円の円高スイスフラン安となった
- 1999年から2000年にかけては日本の景気回復期待もあり、日本の10年国債利回りが一時期2.5%まで上昇していた。これによる資金シフトで円が強くなっていた
- この間、スイスは米国などと比較すると相対的に金利が低く推移したことから引き続き、スイスフランキャリートレードが活発でスイスフランは下落した
- 2002年以降は同じ欧州通貨であるユーロやポンドと同様に上昇トレンドとなった
- 2008年のリーマンショック時は2008年10月から12月までの3か月間で政策金利を2.75%から0.5%まで下げた(2009年3月に0.25%に利下げした)
- 円(JPY)と同様にゼロ金利にも拘わらず2011年まで上昇したのは米国がいち早く量的金融緩和(QE)を行いドル安となったことと、スイスのインフレ率が-1.2%~+1.2%と低く抑えられており米国やユーロ圈と比較して実質金利が高くなったこと、欧州債務危機によるリスク回避姿勢が要因と考えられる(つまり日本の円JPYと同様の現象)
スイスフラン(CHF)レート推移と変動要因(2010年代)
※2020年以降のデータも当面こちらに追加していきます
- 2011年までスイスフランの上昇は続いた(円と同様の動き。上記2000年代のコメント参照)
- 2011年8月、スイスフランは対米ドルの最高値である1ドル=0.71スイスフランまで上昇した
- 2011年9月、スイスフラン高による景気悪化を懸念したスイス国立銀行は、スイスフランの対ユーロでの上限値(ユーロの対スイスフランの下限)を1.20(つまり1ユーロ=1.2スイスフラン)にすると宣言し無制限介入を開始した
- これにより2011年9月から2015年1月まで1ユーロ=1.2スイスフランで固定された(対ユーロの推移は下記チャートを参照)
- 2015年1月15日、スイス国立銀行はユーロ買い・スイスフラン売りの介入を終了すると発表。発表後は一時1ユーロ= 1.2スイスフランから0.85スイスフラン前後まで大幅に上昇した(上記チャートは月次ベースのためそこまで上昇していないように見えるが日時データでは2015/1/16に1ユーロ=0.85スイスフラン前後まで上昇した)
- これはスイスフランショックと呼ばれており、翌週のECB理事会で国債買い入れによる量的金融緩和の開始が決定的で、これ以上対ユーロでスイスフラン高を抑制することは不可能な状態になっていたことで起こった現象である。ただし、上記のスイスフラン/ドルチャートを見ても分かる通り、対ドルではほとんど変化がなかった。(あくまで、ユーロが単独で安くなった現象である)
- 結果として2010年代のスイスフランは対ドルで高値圏で安定的に推移した
- 2000年代~2010年代にかけてスイスの外貨準備高は大幅に増加した:世界各国の外貨準備高ランキングの変化(1990年・2005年・直近)
- 2020年に入り新型コロナウイルスの影響で世界的に混乱する中、スイスフランは安全資産として買われた。スイス国立銀行が過度なスイスフラン高を抑制するために大規模なスイスフラン売りの介入をする中でも上昇した。
関連ページ
スイスの政策金利とインフレ率の推移はこちらを参照してください!