ファイナンシャルスター

株式・債券・為替・REIT・投信・会計・税制など Copyright©2016-2021 financial star

知識・ノウハウ(税金・会計・節税)

海外移住による相続税回避スキームは2つの制度改正により難しくなった

年に数回程度「富裕層の海外移住による相続税回避スキーム」について聞かれることがあるので忘備録として掲載しておきます。

結論から申し上げると、以前のように親子で海外に移住して相続税を回避することは難しくなっています。

富裕層の海外移住による相続税回避スキームとは

「富裕層の海外移住による相続税回避スキーム」を一言で説明すると、相続税がない(低い)国に移住して、そこに資産を持ち出し、相続税を回避・軽減させるという内容になります。

この点については冒頭で触れたとおり、2010年代前半までとは異なり「親子(被相続人・相続人)がシンガポールなど相続税がない国外に移住して、国外財産を相続することで相続税を回避すること」は実質的に難しくなっています。

具体的には2015年と2017年に行われた2つの制度改正により規制が強化されたことが要因です。

  • 2015年:出国税導入【含み益がある株式などを国外に移転する際、含み益に対して所得税15.315%が課税される】
  • 2017年:5年ルールが10年ルールに延長【親子で5年間海外に住めば国外資産への相続税が免除→10年に延長】

下記ではこの2つの制度改正について解説しています。

まず最初に、出国税の導入についての説明です。

海外移住による相続税回避スキームを阻む規制①【出国税の導入(2015年)】

いわゆる「出国税」の正式名称は「国外転出時課税制度」です。

内容は2015年7月1日以降、1億円以上の有価証券等を所有している人が国外転出する際、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されるというものです。

対象資産は株式・投信・匿名組合の持ち分・デリバティブ取引などが含まれます。

上場企業の創業者(創業者一族)などが最も分かりやすい例ですが、以前は巨額の含み益を有する株式などを保有したままキャピタルゲイン課税がゼロであるシンガポールや香港に移住して、キャピタルゲイン課税を回避するという事例が多く発生していました。

ちなみに株式のキャピタルゲインが非課税となっている国は香港・シンガポール・スイス・ニュージーランドなどがあります。

「国外転出時課税制度」の導入により、既に発生している含み益については日本国内で課税されてから国外に持ち出すことになりました。

そのため、含み益が大きい株式等を海外に持ち出してキャピタルゲイン課税を回避することは不可能となりました。

さらに香港・シンガポール・ニュージーランドなどは相続税も非課税であるため、以前は一家でそのまま移住を続けることで相続税までも非課税とするスキームとなっていました。

ただし、国外転出した日本人の海外資産について日本の相続税がかからなくなるには一定の条件があります。

その条件がより厳格化されたのが下記の【5年ルールが10年ルールに延長(2017年)】です。

海外移住による相続税回避スキームを阻む規制②【5年ルールが10年ルールに延長(2017年)】

以前は相続人と被相続人が5年間海外に住めば保有する国外資産について日本の相続税は適用されませんでした。

その為、家族(被相続人と相続人)で相続税が非課税の香港・シンガポールなどに移住する富裕層が多く存在していました。

しかし、2017年4月1日より制度が厳格化され海外移住の期間が5年間から10年間に延長されました。

この影響は大きく、よほど香港・シンガポール等が好きであれば問題ないかもしれませんが、10年以内に相続が発生した場合は相続税対策効果が全くない中で、香港・シンガポールに移住してこのスキームを行う事例は大きく減少しています。

2017年の改正時点で移住してそれほど時間が経っていない人の中には、当該スキームをあきらめて帰国しているケースも多くあるようです。

5年ルールができたきっかけは武富士事件

上記の通り、相続人と被相続人の海外移住に関する5年ルールは10年ルールとなりましたが、もともと5年ルールができたきっかけは武富士事件です。

1999年、当時、消費者金融最大手であった武富士の創業者は自身が所有する武富士株をオランダの資産管理会社に売却、その後、オランダの資産管理会社の株式を香港に住む長男に贈与しました。

当時の法律では日本の非居住者が国外財産を贈与によって取得した場合、日本の贈与税は課税されないこととなっていました。

これに対し国税は異議を唱え、香港に移住した後の3年半のうち、2/3以上は香港、1/3未満は日本で生活しており、完全に移住していたわけでなく、租税回避を目的としたものだと主張しました。

また、翌年には同じ事例が発生することを防ぐために「5年ルール」を作りました。

その後、2005年に国税が長男(武富士)側に1,600億円の追徴課税を課し、最終的に裁判に発展しました。

ちなみに、当たり前ですが武富士事件には5年ルールは適用されません。

結果的に、2011年に最高裁が長男(武富士)側の主張を認め、加算金を含めた約2,000億円が長男側に還付されました。

国税の完敗となりました。(このスキームを考えた人は本当に凄いと思います)



-知識・ノウハウ(税金・会計・節税)
-