こちらのページでは不動産(建物)の地震リスクを表す「PML値」について解説しています。
J-REITだけでなく、私募REITやインフラファンドなどでも地震リスクは「PML値」で管理しています。
地震保険は保険料が高い為、J-REIT等の不動産ファンドでは基本的に加入しません。
PML値が低い物件でポートフォリオを構成し、例外的にPML値が高い物件のみ地震保険を付与するという運用を行っています。
- インフラファンドのPML値はこちらを参照:インフラファンドの地震リスクはPML値で確認(保有物件のPML値も掲載)
下記では『J-REIT全銘柄のポートフォリオPML』や『個別物件のPML値』も掲載していますので参考にしてください。
それではまず、「PML値」の解説から始めます。
PML値とは
「PML」は「Probable Maximum Loss」の略で、日本語では「予想最大損失率」と訳されます。
「PML値」は『50年間に10%を超える確率で起こる(475年に1度で起こる)大地震が発生したとき、被災後の建物を被災前の状況に復旧するために必要なコストの割合』です。
計算式は下記の通りです。
- PML値(%)=補修費用 ÷ 建物の新築費用(再調達費用)×100
例えば、現時点の新築費用(再調達費用)が100億円の建物が、地震により10億円の補修費用が必要と想定された場合、下記の計算の通りPML値は10%となります。
- PML値(%)=補修費用10億円 ÷ 建物の新築費用(再調達費用)100億円=10%
「PML値」の水準に対する危険度や想定される被害は下記の通りとなります。
REITが保有する物件のPML値は10%未満が大部分(15%~20%を超える物件は地震保険を付与)
J-REITの各投資法人が保有する物件のPML値は有価証券報告等で確認することができます。
通常はPML値が10%未満の物件を取得することが一般的です。
稀に10%以上の物件も散見されますが、20%以上の物件はほぼありません。
参考までに野村不動産マスターファンド投資法人(3462)のサイトに掲載されていたQ&Aを掲載します。
野村不動産マスターファンド投資法人のQ&Aから抜粋
地震リスクへの対応は、どう考えていますか?
A本投資法人は、物件選定基準として、原則として新耐震基準適合又はそれと同水準以上の耐震性能を有し、PMLが20%未満であることを基準とします。
かかる基準を満たさない場合であっても、耐震補強工事を行ってかかる基準を満たすことが可能であり、かつかかる工事の費用を加えた上でも十分な収益性が見込め、本投資法人のキャッシュフローへの影響が軽微である場合には投資を行うことができることとします。
また、PML値が15%以上の物件については、火災保険及び利益保険の特約として地震保険を付保することとしていますが、現在本投資法人の保有する物件は全て新耐震基準に適合しており、またPML値においても15%を超える物件は保有していないため、地震保険は付保しておりません。
野村不動産マスターファンド投資法人では選定基準で20%未満の物件しか購入できないようにしており、15%以上の場合は地震保険を付与することを条件としています。
他の投資法人も概ね同じような基準を設けている事が一般的です。
J-REITが保有する物件の具体的なPML値を紹介(野村不動産マスターファンド保有物件の例)
野村不動産マスターファンド投資法人が保有している物件のPML値を一部紹介します。
全299物件の中から一部を抜粋してます。
データは2021年8月期末時点です。
ちなみに2021年8月期末における野村不動産マスターファンド投資法人の「ポートフォリオPML」は1.95%です。
「ポートフォリオPML」はポートフォリオ全体のPML値であり、各物件のPML値の平均ではありませんので注意してください。(これについては最下段で詳しく紹介しています)
それではまずオフィスビルのPML値から紹介します。
オフィスビルのPML値の例
新宿野村ビルは1978年竣工と古いビルですが、PML値は0.74%と非常に低い数値となっています。
これは長周期地震動対策工事などを行ったことで最先端の超高層ビルに匹敵する制振性能を備えたことが要因となっています。
これを見ても分かる通り、PML値は場所や築年数だけでなく耐震工事の有無など物件固有の事象により変化することが分かります。
また、オフィスに限った話ではありませんが、北海道の物件はPML値が非常に小さい数値となっています。
商業施設のPML値の例
相模原の物件は築年数が古いこともあってか、J-REITが保有する物件では珍しくPML値が10%を超えています。
居住用施設(マンション等)のPML値の例
オフィスと比較して居住用施設(マンション等)のPML値は若干高めになる傾向があります。
オフィスではPML値が1%~3%の物件も多くありますが、居住用施設(マンション等)は4%~8%の物件が多くなります。
物流施設のPML値の例
J-REITが保有するような数十億円~数百億円といった大型かつ最先端の物流施設はPML値が低くなる傾向があります。
一方、築年数が経過している小型の物流施設はPMLは高くなります。
ホテルのPML値の例
ここでも北海道の物件のPML値が極端に低くなっています。
次にJ-REIT全銘柄の「ポートフォリオPML」を紹介します。
J-REIT各銘柄の地震リスクは「ポートフォリオPML」を確認
ほぼ全ての投資法人がポートフォリオ全体のPML値を表す「ポートフォリオPML」を公表しています。
J-REIT各銘柄の地震リスクを確認する場合はこちらを参考にします。
J-REIT全銘柄の「ポートフォリオPML」一覧 【J-REITの地震リスクは高くない】
下記は2021年10月時点で入手可能な最新の「ポートフォリオPML」を掲載しています。
各投資法人の有価証券報告書等から抜粋しています。(一般的には有価証券報告書に全物件のPML値とポートフォリオPML値が掲載されています)
いずれの銘柄も「ポートフォリオPML」は低い数値となっています。
そういう意味ではJ-REITの地震リスクはそれほど高くないと言えそうです。
「ポートフォリオPML」は各物件の平均値ではない
ちなみに、「ポートフォリオPML」は各物件のPML値を平均したものではありません。
J-REITの物件は様々な場所に分散されています。
「ポートフォリオPML」はある震源位置で地震が発生した場合に、ポートフォリオを構成する建物に同時に発生する被害額の総和から算出されています。
つまり、物件の分散効果を考慮したPML値となっています。
そのため、一般的に「ポートフォリオPML」は保有物件の単純な平均値よりも低い数値になります。
例としてタカラレーベン不動産投資法人の例を紹介します。
タカラレーベン不動産投資法人の「ポートフォリオPML」は1.2%です。
そして、下記が全物件のPML値です。
明らかに「ポートフォリオPML」は単純平均した数値より低くなっているのが分かります。
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