低迷するヘッジファンドの収益率(年間収益率の推移)
パフォーマンスの悪化に苦しんでいるヘッジファンドが多いようです。
下記はヘッジファンド業界全体のパフォーマンスを表す「HFR グローバルヘッジファンド・インデックス(HFRX)」の1998年からの年間リターンの推移です。
2000年代前半を境にパフォーマンスは低下傾向となっていることが確認できます。
ヘッジファンド業界全体のパフォーマンスを表す「HFR グローバルヘッジファンド・インデックス」を確認すると、2004年以降で10%を超えるパフォーマンスを上げたのはリーマンショック翌年の2009年(+13.4%)のみです。
これも前年に−23.25%の下落をした後ですので、下がりすぎたものがリバウンドしただけで、運用が上手くいったとは言えません。
また、2010年代(2010年~2019年)の10年間で4回マイナスとなっています。(2011年・2014年・2015年・2018年)
そもそもヘッジファンドはマーケットがどんな環境でもプラスのリターンを目指すという「絶対リターン」が売りのはずですが、なかなか難しいようです。
しかも、2010年代(2010年~2019年)の平均リターンは年率1.3%です。
これなら米国国債でも買っていた方が良かったということになります。
1990年代~2000年代前半は10%以上のリターンが当たり前でしたが、現時点においてヘッジファンドインデックスで平均的に10%以上のパフォーマンスを出すことは期待できないと考えて良さそうです。(このページのパフォーマンスは全て米ドルベースです)
しかも、ヘッジファンドインデックスには生存バイアスがあり、実際よりパフォーマンスが高めに算出されています。
そのため、インデックスを上回る運用を実現することすら難しいといわれていますので、実際にヘッジファンドへ投資した場合の投資成果は上記のパフォーマンスを下回るケースが多いと思われます。
- 生存バイアスの意味などは「ヘッジファンドの全てをわかりやすく解説」を参照してください。
それでは何故、2004年頃からヘッジファンドのパフォーマンスが低下しているのかを確認していきます。
ヘッジファンドが低迷する要因は運用資産残高の増加(ヘッジファンド業界の運用資産残高推移)
ヘッジファンドのパフォーマンスが低迷している要因はもちろん1つではなく、様々な要因が重なった結果であると思われますが、その中でも最も影響が大きいのは「ヘッジファンド業界全体の運用資産の増加」です。
ヘッジファンドは同じ戦略であれば、概ね着目するポイントは重なってしまいます。
特に株式ロングショート、イベントドリブン、債券アービトラージなどはその傾向が強くなります。
その為、資金が集まりすぎると投資機会(オポチュニティ)が少なくなり、リターンは低下します。
下記はヘッジファンド業界全体の運用資産座高の推移です。
ヘッジファンド業界の運用資産残高は2000年に4,910億ドル(約50兆円)でしたが、10年後の2010年には約4倍の1兆9,170億ドル(約200兆円)となり、更にその5年後の2015年には2.9兆ドル(約300兆円)まで大幅に拡大してきました。
1990年代はヘッジファンドと言えば一部の超富裕層の為の商品でしたが、2000年頃から年金をはじめとする機関投資家の資金が大幅に流入し、2005年頃には一般投資家向けの公募投信も多く販売されるようになり、投資家層が劇的に拡大しました。
世界の金融市場も拡大していますが、さすがに増加ペースも早すぎますし、300兆円という資産規模自体も大きすぎると言えます。
これだけ急に競争が激化すると以前のような高いパフォーマンスは期待しにくいと思われます。
基本的にヘッジファンドのリターンと運用資産残高は反比例すると考えた方が良さそうです。
ヘッジファンドへの資金の流れに変化も
米国最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員年金基金(カルパース)は2014年9月にヘッジファンド投資からの撤退を発表しました。
同様にニューヨーク州やニュージャージー州の年金基金もヘッジファンドの投資残高を減らしています。
このようにここ数年ヘッジファンド業界の資産拡大に大きく貢献してきた機関投資家にヘッジファンドからの撤退の動きが多くみられるようになっています。
急激な資産拡大によりパフォーマンスが悪化しており自然な動きであると思います。
残高が減少する(残高の拡大が緩やかになる)ことで、以前のような高いパフォーマンスを回復できれば業界の中長期的な発展にも貢献します。
ヘッジファンドが中長期的に発展するには運用資産の増加ペースが緩やかになり、「Hedge Fund Research HFRX Global Hedge Fund Index」ベースで平均10%以上のリターンは確保したいところです。
解約制限など流動性の低さを考えると少なくとも平均で7〜8%はないと投資妙味はありません。
ヘッジファンド業界全体の運用資産残高は定期的にチェックしておきましょう。
ちなみにヘッジファンドと同じオルタナティブ投資の1つである「PEファンド」は引き続き機関投資家からの人気を維持しています。
- PEファンドについてはこちらを参照:プライベートエクイティファンド(PEファンド)の全て