こちらのページでは円ヘッジ付き外債のリスクについて実例を挙げて解説しています。
円ヘッジ付き外債は一見リスクが低い投資に見えますが、必ずしもそうではありません。
米ドル金利が上昇すると「債券価格下落」「ヘッジコスト増」のダブルパンチで大きな損失が出る可能性もあります。
詳細は下記をご覧ください。
ヘッジ付き外債は満期保有でも元本割れの可能性
先日、こんな質問を受けました。
「10年米国債の購入と同時に為替予約により円ヘッジすれば円ベースでの利回りも確定され、リスクはなくなると考えて良いですか?」
これは非常に良い質問です。
簡単なようで意外と奥が深い内容です。
まず、答えから申し上げると「必ずしもリスクはなくなりません」ということになります。
為替ヘッジの方法により、元本割れのリスクはあります。
普通に考えると、為替リスクはなくなるので、米国債を満期まで保有する前提であれば利回りは確定されリスクはなくなるように感じます。
しかし、そうではありません。
ここでまず、為替予約による円ヘッジをどのように行うかを考える必要があります。
為替予約による円ヘッジは2パターン(通常は長期債+短期為替予約をロール)
為替予約による円ヘッジのパターンは2つです。
1つ目のパターンは購入する米国債と同じ10年間の長期為替予約を行うケースです。
この場合、理論的には10年の日米金利差がヘッジコストとなります。
よって、結果的に日本の(円建ての)10年国債を購入したことと同じになります。(実際にはドルの需要によりベーシスコストが変化することでヘッジコストも変化するので若干かい離します)
- 10年米国債+10年為替ヘッジ=10年日本国債
このやり方ですと確かに円ベースの利回りが確定し満期まで保有すればリスクはなくなります。
しかし、現実にはこのような長期のヘッジを行うケースはほとんどありません。
日本国債を購入するのと同じ効果を得る為に、わざわざ米国債を購入して円ヘッジをしても手間がかかるだけです。
- ヘッジコストについてはこちらを参照してください:ヘッジコストは金利差とベーシス(ドル需要)で決まる
次に2つ目のパターンは3ヶ月前後の短期の為替予約を行い、ロールしていくケースです。
実務的にはこちらが大半です。
投資信託のヘッジありコース(円コース)などでも一般的に3ヶ月前後の為替予約をロールして円ヘッジしています。
この場合、ヘッジコストは日米の短期金利差によって変化します。
日米金利差が変化すると、為替予約をロールするたびにヘッジコストが変化することになります。
購入する長期債は固定金利で、ヘッジコストは短期の金利差です。
米国債購入後に米国の短期金利が上昇していった場合、極端な例では米国の短期金利が購入時の10年米国債利回りを超えてしまい、10年米国債利回りよりもヘッジコストの方が高くなることもあります。
そうなるとマイナス利回りとなりますので投資元本が割れることになります。
マイナス利回りになるくらいなら為替予約をロールせず、米国債を売却すれば良いではないかという意見も出てくるかと思いますが、そのような局面では長期金利もある程度上昇していることが想定されますので、米国債の価格が下落しており、売却すると売却損が発生します。
- 債券のイールドカーブについてはこちらを参照:イールドカーブについての分かりやすくて詳しい説明
下記で具体的な事例を使って説明します。
円ヘッジ付き外債の投資例(金利上昇局面では損失が発生するので注意)
理解しやすいように、極端な例を紹介します。
米国10年国債が歴史的低水準となった2016年7月に10年米国債を購入し、3ヶ月の為替予約でロールした場合を検証してみます。
ヘッジコストは日米の3ヶ月LIBORの金利差とします。
まず、米国10年債は固定金利ですので、購入時点で1.4%の利回りが確定します。
スタート時(2016年7月)のヘッジコストは0.68%ですので円ヘッジ後でも0.72%の利回りが残っています。
しかし、その後、FRBによる利上げの影響で3ヶ月ドルLIBORが大幅に上昇し、2018年4月にはヘッジコストが2.38%まで上昇しました。
1.4%のクーポンに対しヘッジコストが2.38%ですので、円ヘッジ後の利回りは−0.98%とマイナスになっています。
さらに、ここで為替予約のロールをストップして取引を解消しようとしても、上記の通り米国10年債の利回りが2.95%と長期金利も大幅に上昇していることから、購入したクーポン1.4%の米国10年債を売却しようとすると債券価格の下落により元本割れすることになります。
単純計算ですが、デュレーション8年前後で金利が1.55%上昇していますので、債券価格は12.4%下落することになります。
このように円ヘッジを短期でロールする場合は、米ドル金利の上昇により、ヘッジコストが変化することから、元本割れリスクが残ることになります。
そして、金利上昇による「ヘッジコストの上昇」と「債券価格下落」のダブルパンチになる可能性もあります。
満期まで保有すれば債券価格の下落は回避できますが、その間マイナス金利が継続する可能性もあります。
よって、米ドル金利が上昇しそうな局面では円ヘッジ付き外債には注意が必要です。
冒頭の質問に戻りますが、10年米国債を購入し同時に為替予約をしても利回りが確定する訳ではなく、元本割れリスクもあることが分かります。