ファイナンシャルスター

株式・債券・為替・REIT・投信・会計・税制など Copyright©2016-2021 financial star

知識・ノウハウ(債券)

TLAC債についての分かりやすくて詳しい説明

TLAC債(TLAC適格債)について分かりやすく正確に説明できますか?

これは金融機関の現場でもなかなか難しいようです。

こちらのページではTLAC債について分かりやすくて本質的な解説をしていますので参考にしてください。

TLAC債のポイントは下記2点です。

  1. TLAC債は大手金融機関の破綻時の処理に使われます。金融機関の破綻を防止するために発行される劣後債・優先証券とは役割が異なります。
  2. 銀行本体でなく、万が一の時に銀行本体より回収が劣後する持株会社が発行体となります。

下記で詳しく説明しますのでご覧ください。

TLAC債のポイント①(破たん防止ではなく、破綻時の処理に使われる債券)

TLACは「Total Loss-Absorbing Capacity」の略称で日本語では総損失吸収能力です。

ちなみにTLACの読み方は「ティーラック」です。

TLAC規制はバーゼルⅢ規制に対する補完的な仕組みであり、バーゼルⅢで規定されている自己資本に加え、破綻時に損失を吸収できる社債などを加えた基準になります。

ここで重要なポイントは、TLAC債は劣後債・優先証券のように銀行の破綻を回避するものではなく、破綻した時に公的資金を使わずシステミック・リスクを避けるためのものです。

TLACの最低所要水準はリスクアセット対比で第1段階の2019年1月で16%、第2段階の2022年1月で18%となっています。

2022年基準ですと下図にある通り、バーゼルⅢの自己資本に上乗せして必要なTLACはリスクアセット対比で10%となりますので、上記に記載した通り、TLAC適格債の発行ニーズは高いと考えられます。

対象となる金融機関は国際合意によりグローバルなシステム上重要な銀行と定められるG-SIBs (Global Systemically Important Banks)の30行となっています。

日本では三菱UFJ・みずほ・三井住友の3メガバンクが対象となります。

また、G-SIBsには含まれませんが、海外の事業規模が大きいことと、破綻時に金融システムに与える影響が大きいことから、日本では金融庁の裁量で野村HDもTLAC規制の対象に加わりました。

TLAC最低所要水準イメージ図

TLAC債のポイント②(持株会社が発行することでTLAC適格に)

TLAC適格債は金融機関が破綻した場合に、元本を削減し損失を吸収することで預金者やシニア債保有者を保護する役割となります。

TLAC適格債として認められるには預金やシニア債に先立って損失を吸収する「劣後性」の要件を満たす必要があります。

「劣後性」の要件を満たす発行方法には①各国の法令に基づき劣後させる方法(法定劣後型)、②契約によって劣後させる方法(契約劣後型)、③除外債務のない持株会社等の破綻処理エンティティが発行することによる方法(構造劣後型)の3パターンがあり、日本は③の構造劣後型を採用しています。

日本の金融機関でTLAC規制対象となるのは3メガバンクと野村HDで、いずれも金融持株会社によるホールディング制を採用していることから、発行するTLAC債は全て「金融持株会社が発行体」となっています。

「みずほ」であれば「みずほ銀行」ではなく「みずほフィナンシャルグループ」が発行体となります。

これは説明すると少し難しくなるのですが、結論だけ書くと「みずほ銀行のシニア債」と「みずほフィナンシャルグループのシニア債」を比較した場合、破綻時の回収は「みずほ銀行のシニア債」が優先され、「みずほフィナンシャルグループのシニア債」が劣後します。

格付け会社によってはこの「純粋持ち株会社の劣後性」を認めており、S&Pではみずほフィナンシャルグループのシニア債はみずほ銀行のシニア債より格付けが1ノッチ下になります。ムーディーズは同一の格付けです。

このように日本の3メガおよび野村は持株会社(FG・HD)がシニア債を発行することでTLAC適格となります。

実際の発行例で確認してみます。

発行日が近い「みずほフィナンシャルグループ発行の5年米ドル建て債券」と「みずほ銀行発行の5年米ドル建て債券」の条件を比較します。

みずほTLAC債とシニア債の比較

左側の「みずほフィナンシャルグループ発行の米ドル建て債券」はTLAC適格となります。

条件を見ると格付けがみずほ銀行発行の債券よりも1ノッチ低い分、スプレッドが大きくなっていることで高いクーポンとなっています。

スプレッドは意外と差があり0.6%以上の違いがあります。

みずほフィナンシャルグループ発行の債券とみずほ銀行発行の債券はほとんど同じではないかと思われる人も多いようですが、このように格付けも異なり、クーポン水準もそれなりに違いがあります。

「その他Tier1債(AT1債)」「Tier2債」「TLAC債」のポイントと比較

こちらでは「その他Tier1債(AT1債)」「Tier2債」「TLAC債」の違いが分かるように、それぞれの特徴を掲載しています。

その他Tier1債(AT1債)

金融機関が経営を続けることを前提として活用されます。

多くのAT1債の場合、普通株式等Tier1比率が5.125%又は7.0%を下回った場合、損失を吸収するかたちで元本削減か株式転換が行われます。

また、多くは早期償還条項が付与されますが、永久債となります。

Tier2債

こちらも基本ベースは経営を続けることが想定されています。

実質破綻については各国で運用に違いはありますが、日本の場合ですと債務超過か預金の支払い停止で元本削減されます。

いわゆる期限付劣後債で、その他Tier1債(AT1債)と比較すると普通社債に近い性格となります。

TLAC債

その他Tier1債(AT1債)・Tier2債と最も大きく異なるのが、TLAC債は破綻後の処理として使われるということです。

破綻後の処理において預金や銀行シニアローンを保護するかたちで元本削減されます。

優先劣後関係は銀行シニア債とTier2の中間に来るイメージで下記のように考えればよろしいと思います。

過去に日本の銀行が破綻した事例からTLAC債の処理を考える

りそな銀行:実質破綻とはならず

2003年のりそな銀行のケースでは預金保険法102条1項1号の「予防的資本注入」が行われました。

これは債務超過になっていないということが前提となっており、実質破綻とは認定されませんでした。

よく、りそな銀行は破たんしたと言われますが、正確には破綻していません。

足利銀行:実質破綻

2003年の足利銀行はりそな銀行とは異なり、資産査定を厳格化した結果、債務超過と判定され実質破綻と認定されました。

足利銀行は実質破綻認定の唯一のケースとなっています。

日本振興銀行:破綻処理(初のペイオフ)

2010年の日本振興銀行は破綻処理され、ペイオフが発動された唯一のケースとなっています。

今後銀行が破綻した場合のTier1債(AT1債)・Tier2債・TLAC債の取り扱い

上記の事例が発生した時はまだTLAC債が世の中に誕生していませんでしたので、今後、同じような事例が発生した場合の取り扱いをまとめます。

上記の事例から今後、りそな銀行と同様の事例が発生した場合でも、その他Tier1債(AT1債)・Tier2債・TLAC債のいずれも毀損しません。

足利銀行と同様のケースが発生した場合には、実質破綻となりますので、その他Tier1債(AT1債)とTier2債は毀損することになりますが、TLAC債は毀損しません。

日本振興銀行と同様のケースが発生した場合には、破綻処理となることから、TLAC債も含めて全ての債券が毀損することになります。

TLAC債への投資を考える

上記の通り、銀行(証券)シニア債と期限付劣後債の中間的な位置づけです。

ただし、そもそもTLAC債はG-SIBsの30行及びそれに準ずる金融機関しか発行しませんから、基本的にはどれも信用力が高くなります。

よって、購入する投資家の多くは破綻リスクがほとんどないという前提で投資していると考えられます。

シニア債よりも若干でもスプレッドが乗るということであれば、特に機関投資家には人気がありそうです。

ちなみにみずほ銀行の米ドル建てシニア債はムーディーズがA1、S&PがAです。

同じく、TLAC適格のみずほフィナンシャルグループのシニア債はムーディーズがA1、S&PがA-となっており、どちらも高格付けです。

また、万が一破綻した場合、シニア債でもほとんど回収できないことも想定されるので、それであれば少しでも利回りの良いTLAC債に投資するという考え方の投資家も多いのではないでしょうか。

関連ページ

バーゼルⅢやCoCo債についてのポイントはこちらも参照して下さい!

債券のイールドカーブ・スプレッド・デュレーションについてはこちらを参照してください!



-知識・ノウハウ(債券)