こちらのページでは社債への投資で最も重要な「スプレッド」と「デュレーション」について事例を挙げながら分かりやすく解説しています。
- 社債の利回りは「ベース金利」+「スプレッド」で決まります。「スプレッド」は信用リスクに応じた上乗せ金利で、信用力が低いほど「スプレッド」は大きくなります。
- 「デュレーション」は債券の金利感応度を表します。特に金利上昇リスクを考える際に重要で、デュレーションが長くなると金利上昇リスクが大きくなります。
詳細は下記をご覧ください。
それではまず最初に社債についての説明です。
社債とは
社債とは企業(会社)が資金調達のために発行する債券で、それぞれ利率と期間が定められています。
英語表記は「Straight Bond(ストレートボンド)」で、日本国内でも社債のことをSBと呼ぶケースもあります。
利率(クーポン)はベース金利となる国債利回りに発行体の信用力を反映したスプレッドが上乗せされます。
- 社債の利率(クーポン)=ベース金利(国債利回り等)+スプレッド
期間は資金使途や金利環境、または投資家の需要動向などによって決定されます。
ちなみに債券は利回りが上昇すると債券価格が下落し、反対に利回りが低下すると債券価格は上昇します。
分かりにくい方のために単純化したモデルでもう少し説明すると、10年国債を利回り5%の条件(クーポン5%・債券価格100)で購入した直後、景気悪化によりマーケット金利が低下して、市場における10年国債の利回りが4%になったとします。
この時、クーポン5%の10年国債が4%の最終利回りになるには債券価格が単純計算で約110になる必要があります。(クーポンは5%×10年だが、償還時に100で償還されるため10のキャピタルロスが発生し、トータルで年率4%の最終利回りとなる。実際には複利計算されるため数値は若干異なる)
要するに債券を購入した後、マーケット金利が低下したので既に購入した債券の相対的な価値が高まったということです。
少し話はそれましたが社債の場合はベース金利となる国債金利に加え、スプレッドも変化します。
ベース金利とスプレッドはそれぞれ別々に変動します。
よって、社債の価格はベース金利とスプレッドを合わせた利回りの変化によって決定されます。
下記では「利回り(ベース金利+スプレッド)」の変化についてさらに詳しく解説します。
社債の利回り=ベース金利+スプレッド(ベース金利とスプレッドは別々に変化する)
社債の利率はベース金利(一般的に国債利回り)に発行する企業の信用力に応じたスプレッド(上乗せ金利)が加算されます。
つまり、「社債の利回り=国債利回り+スプレッド」となります。
スプレッドはそれぞれの個々の企業の信用力で決まりますが、社債市場全体では一般的に景気が良くなるとスプレッドは縮小(タイトニング)します。
しかし、これも一般的にですが、景気が良くなるとベースとなる国債金利は上昇します。
- 景気回復期
- 「国債利回り↑ + スプレッド↓」
- 景気後退期
- 「国債利回り↓ + スプレッド↑」
社債市場全体では上記のようになりますが、もちろん景気回復期でも業績が極端に悪い企業のスプレッドは拡大(ワイドニング)します。
下記では国債利回りとスプレッドの変化を具体的な事例で説明します。(個別の債券とインデックスの例で説明)
ソフトバンク社債のベース金利とスプレッドの変化
社債の具体的な例として過去にソフトバンクが発行した債券(円建て)の例を2つ掲載します。
- ①2007年6月17日発行の4年債、利率3.39%
「発行時の4年国債金利1.63% + スプレッド1.76%=3.39%」 - ②2009年6月11日発行の2年債、利率5.10%
「発行時の2年国債金利0.36% + スプレッド4.74%=5.10%」
2007年は世界的に景気が良くスプレッドは比較的小さいですが、2008年9月のリーマンショックの影響が大きく残る2009年6月は期間が2年と短いにもかかわらず4.74%という非常に高いスプレッドとなりました。
ソフトバンクは2006年にボーダフォンを買収し携帯事業に主軸を移しており、2007年と2009年では企業リスクに大きな変化はなかったと考えられ、スプレッドの変化はマーケット要因と思われます。
スプレッドは大幅に拡大した一方、ベース金利である国債金利は大幅に低下しています。
米国社債のベース金利とスプレッドの変化
次に個別の債券ではなく債券インデックスで米国社債のベース金利とスプレッドの変化を紹介します。
こちらもリーマンショック前後となる2007年と2009年のデータとなります。
米国社債の「利回り」と「スプレッド」を格付ごとに分けて一覧にしています。
<米国社債のベース金利とスプレッドの変化(2007年6月・2009年5月)>
上記表をグラフにすると下記のようにイメージしやすくなります。
2007年と2009年を比較すると、リーマンショックの影響によりベース金利の国債利回りは大幅に低下(4.92%→2.34%)していますが、逆にスプレッドは大幅に拡大しています。
一般的に景気が低迷すると利下げが行われ、ベース金利が低下し、逆に信用リスクが高まる為、上乗せ金利であるスプレッドは拡大します。
経済環境は大きく変化し、ベース金利とスプレッドは大きく変化していますが、結果的にベース金利とスプレッドは相殺され債券の利回りはそれほど大きく変化していません。
例えばBBB格で比較するとスプレッドは3.71%拡大していますが、利回りは1.13%の上昇です。
ここから分かることは、景気が良いときに社債に投資した場合、景気が悪化するとスプレッドの拡大で債券価格が大幅に下落するように感じますが、実際にはベース金利の低下によりある程度相殺されるので、それほど大きな債券価格の下落にはならないことになります。
ただし、極端なショック時は短期的にスプレッドの拡大が極めて大きくなり債券価格も大きく下落することがあります。
次に社債の期間とデュレーションについて解説します。
社債の期間とデュレーション
社債の期間(満期保有なら利回りは確定するが、途中売却すると元本割れリスクが発生)
社債の期間は発行体のニーズと投資家からの需要によって決定されます。
一般的に期間が長い程、利回りは高くなります。
投資家からみた場合、社債を購入して満期まで保有すれば購入時点の条件で利回りが確定します。
しかし、保有している債券を途中で売却する場合は、債券価格の変動により元本割れリスクが発生します。
この債券価格の変動リスク(金利上昇リスク)を考える上で重要となるのがデュレーションです。
下記ではデュレーションについて詳しく解説します。
修正デュレーションは金利感応度を表す(デュレーションが長いと金利上昇リスクが高くなる)
債券の価格変動の目安を表す指標としてデュレーションがあります。
正確に説明するとデュレーションは2種類あります。
- マコーレー・デュレーション
- 修正デュレーション
正式な名称は上記の通りですが、ややこしいのが、両方とも単に「デュレーション」と呼ばれることも多くあります。
マコーレー・デュレーションは債券の「元本回収期間」のことです。
元本回収期間は残存期間とほぼ同じになりますが、クーポンの分だけ残存期間よりも少し早く元本が回収できることになります。
クーポンが高いと回収期間がより短くなるので、クーポンが高いほど残存期間は同じでもマコーレー・デュレーションは短くなります。
同じ最終利回りで同じ残存期間でもクーポンが高く、オーバーバーの債券の方がマコーレー・デュレーションは短くなります。
また、ゼロクーポン債は残存期間=マコーレー・デュレーションとなります。
修正デュレーションは端的に言うと固定利付債の「金利感応度」を表します。
計算式はこのようになります。
- 修正デュレーション=マコーレー・デュレーション/(1+最終利回り)
具体的には「市場金利が瞬間的に1%上昇した場合の債券価格の変化率」であり、修正デュレーションが長いと債券価格の変化率は高まります。
つまり修正デュレーションが長いと金利が上昇した場合の債券の下落率が大きくなります。
(もちろん金利が低下した場合は債券価格の上昇率が大きくなります)
仮に修正デュレーション5年の債券があった場合、瞬間的にマーケット金利が1%上昇したとき、この債券の価格は5%下落することになります。
また、クーポンの水準にもよりますが、一般的に修正デュレーションは債券の残存期間よりやや小さい数字となります。
こちらはデュレーションと債券価格のイメージ図です。
よって、固定利付債の場合、債券の残存期間が長くなると修正デュレーションが長くなり、金利感応度が大きくなることで、金利変動による債券価格の変動が大きくなります。
投信の月次レポート等、債券の金利感応度を表現する際は単にデュレーションと書かれていても、修正デュレーションを表しているはずです。
最悪、そのようになってなくても、修正デュレーションとマコーレー・デュレーションはよほど利回りが高くない限りほとんど同じような数値となります。
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