2014年5月に発行されたドイツ銀行のAT1債(CoCo債)はその後、「経営危機」「コロナショック」「ファーストコール(期限前償還)スキップ」「クレディスイスのAT1債(CoCo債)が全損」等、様々な出来事を経験していることから、AT1債(CoCo債)の理解を深める為には最高の教材です。
下記では「長期チャート」や「コロナショック時の詳細な価格推移」等を掲載していますので参考にしてください。
2014年5月に発行されたドイツ銀行AT1債(CoCo債)の概要
まず最初に、2014年5月に発行されたドイツ銀行のAT1債(CoCo債)の発行条件です。
後に2回(2020年・2025年)もコールをスキップすることになる債券です。スプレッドもタイトではなく悪くない条件です。
- 発行体:ドイツ銀行
- 発行日:2014年5月27日
- 発行額:12.5億ドル
- 償還日:永久債(初回コール:2020年4月30日、以降5年毎に発行体がコール可能)
- クーポン:2020年4月30日まで6.250%、2020/4/30以降は5年スワップ+4.358%
- 元本削減トリガー:普通株式等Tier1比率(CET1比率)が5.125%を下回った場合
次に、当該AT1債(CoCo債)のチャートです。
ファーストコールをスキップしたドイツ銀行AT1債の長期チャート
ドイツ銀行AT1債(CoCo債)の発行日以降の長期チャートです。
非常に示唆に富んだ歴史となっています。
AT1債(CoCo債)の理解を深める上で、非常に参考になります。

ドイツ銀行の最終損益も併せて掲載します。

ドイツ銀行AT1債(CoCo債)価格推移のポイントです。
- ドイツ銀行は2015年頃から経営危機が囁かれ始めました。実際、2015年は68億ユーロの巨額損失を計上し、2019年まで赤字基調が続きました。
- ただし、その間、ドイツ銀行AT1債(CoCo債)はずっと低迷していた訳ではありません。赤字基調が継続している間も、債券価格は何度かリバウンドしました。
- 2016年に下落した後、2017年には債券価格が100(パー)以上に戻っています。
- 2018年に再度下落しましたが、コロナショック直前の2020年2月14日には99.96まで上昇しています。
- 2020年2月から3月にかけて、コロナショックとファーストコールのスキップが重なったことで2020年3月20日前後には債券価格が50前後まで急落しました。
- ちなみにあまり知られていませんが、コロナショック直前にドイツ銀行はここで紹介しているAT1債(CoCo債)を償還させるべく、2020年2月14日に同額(12.5億ドル)のAT1債(CoCo債)を発行しています。
- その為、債券価格が100近辺まで戻っていました。
- しかし、その後コロナショックの影響でマーケットが混乱し、2020年3月11日に経済合理性を考慮し、AT1債(CoCo債)のファーストコールをスキップすると発表しました。
- その影響とコロナの問題がより大きくなる中、債券価格が50前後まで下落することとなりました
- その後、金融緩和が強化された2021年には再度、債券価格が100(パー)以上に戻っています。
- 2022年に入り、米国の金利上昇により債券価格が下落しました。ただし、この時の下落は2016年・2018年のようなドイツ銀行固有の問題ではなく、米ドル金利上昇によるもので、他の銀行のAT1債(CoCo債)も同様に下落しました。
- 2023年に入りAT1債(CoCo債)市場は上昇基調でしたが、2023年3月にクレディスイスのAT1債(CoCo債)が全損となったことで、再度大きく下落しました。
- ただし、この問題はクレディスイス固有のものとの見方が広がり、徐々に債券価格は回復しました。
コロナショック時のドイツ銀行AT1債の詳細データ【ファーストコール前後の価格も掲載】
参考までにコロナショック時のドイツ銀行AT1債(CoCo債)の債権価格推移の詳細データを掲載します。

上記でも掲載した通り、既発のAT1債(CoCo債)を償還させるべく、2020年2月14日に同額(12.5億ドル)のAT1債(CoCo債)を発行しています。
この時点ではほぼ償還が確実視されていましたが、直後に新型コロナウイルスの問題が拡大し、結果的に2020年3月11日にファーストコール(最初の期限前償還)をスキップすると発表しました。
コロナによる混乱に加えてファーストコールがスキップされたことで債券価格の下落が大きくなったことが確認できます。
既発債の償還対応の為に2020年2月14日に発行されたドイツ銀行AT1債(CoCo債)の概要はこちらです。
当たり前ですが、上記AT1債(CoCo債)とほぼ同条件です。
- 発行体:ドイツ銀行
- 発行日:2020年2月14日
- 発行額:12.5億ドル
- 償還日:永久債(初回コール:2025年10月30日、2026年4月30日以降は1年毎に発行体がコール可能)
- クーポン:2026年4月30日まで6.000%、2026/4/30以降は5年スワップ+4.524%
- 元本削減トリガー:普通株式等Tier1比率(CET1比率)が5.125%を下回った場合
2020年に続き2025年も2回目のコールをスキップ
上記で紹介したドイツ銀行AT1債はコロナ過の2020年にファーストコールをスキップし話題となりましたが、実は2025年の2回目のコールもスキップしました。
当時はマーケット環境も安定しており、ドイツ銀行の業績も好調でしたので多くのマーケット参加者は「今回は間違いなくコールするもの」と思っていました。
スキップの理由は発行時(2014年5月)に比べてドル高ユーロ安が進んだことで、当該債券を償還すると為替差損が発生するからというものでした。
ドイツ銀行の信用力とは関係ない理由ということもあり債券価格は下落せず、欧州の金利低下の影響もありスキップ後もオーバーパーで推移しました。
AT1債(CoCo債)に関連するコンテンツ
AT1債(CoCo債)の仕組みについてはこちらを参照!
邦銀が発行するAT1債(CoCo債)についてはこちらを参照!
ファーストコールをスキップしたAT1債(CoCo債)についてはこちらを参照!
AT1債(CoCo債)で重要な普通株式等Tier1比率(CET1比率)についてはこちらを参照!
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