豪ドルとニュージーランド(NZドル)は日本人にも人気のある通貨です。
先進国の中では比較的金利が高く、財政も健全なイメージがあることから安心感があるのでしょう。
特徴が似ていることから両通貨の違いを聞かれても、「NZドルの方が少し金利が高い分、ボラティリテイが高いのでは」といった程度しか答えられないのが一般的だと思います。
しかし、これでは不十分です。
こちらのページでは豪ドルとNZドルを比較して両通貨の特徴を分析し、どのように投資すべきかを考えていきます。
結論を先に申し上げると、相対的にインフレ率が低いも関わらず、金利が高いという点でNZドルの方が有利になるケースが多いようです。
ただし、経常赤字が大きいというデメリットもあるので、そこが気になる方は豪ドルとNZドルの分散投資がおススメです。
詳細は下記をご覧ください。
豪ドル・NZドルの為替レートと政策金利の推移
まず最初に、円/豪ドルと円/NZドルの比較チャートを掲載します。
リーマンショック後のリバウンド局面(2009年~2013年)は一時的に大きく乖離していますが、長期的なトレンドは同じです。
2009年~2013年は豪ドルが急回復する中、NZドルの上昇は限定的となりました。
下記でも説明してますが、この時期はオーストラリアの金利がニュージーランドより高く推移したことが要因となっています。(詳細は下記「政策金利チャートの下段」参照)
- 豪ドルの長期推移についてはこちらを参照:豪ドル為替レート(円/豪ドル,ドル/豪ドル)長期推移(チャート・変動要因)
- NZドルの長期推移についてはこちらを参照:ニュージーランドドル為替レート(円/NZドル,ドル/NZドル)長期推移(チャート・変動要因)
次に政策金利の推移です。
多くの期間でニュージーランドの政策金利がオーストラリアより高く推移しています。
例外はリーマンショック後の回復局面であった2009年~2013年で、この時はオーストラリアの政策金利が高く推移しています。
これが上記の為替レートで2009年~2013年に豪ドルがNZドルと比較して相対的に早くリバウンドした要因といえます。
2009年~2013年にオーストラリアの金利が相対的に高くなった理由は主に2つの要因があります。
1つ目はリーマンショック後、世界的に景気が悪化し、多くの先進国では実質GDP成長率がマイナスとなりました。
ニュージーランドも2008年は−0.4%、2009年は+0.3%と低成長となりましたが、オーストラリアはマイナス成長にはならず、比較的景気が安定していました。
この影響により、その後の利上げ局面でオーストラリアはニュージーランドより大幅な利上げが可能となりました。
2つ目は2010年9月と2011年2月にニュージーランドのカンタベリー地方で大地震があり、景気に下押し圧力がかかったことで、ニュージーランドの利上げが早期で終了したことも影響しています。
この2つの影響で2009年~2013年はオーストラリアの金利が相対的に高くなっています。
ただし、2009年~2013年のような例外を除いては基本的にニュージーランドの方が金利が高いと考えてよさそうです。
それでも、過去30年前後の間、リセッションを経験していないオーストラリアの経済は強固であり、豪ドルはマーケットにショックが発生した場合でも確実にリバウンドしてくれそうな安心感はあります。
次に豪ドルとNZドルに関連するマクロデータを比較します。
豪州とニュージーランドの経済成長率・インフレ率・財政収支・経常収支を比較
こちらでは豪州とNZの為替レートを見るうえで特に重要なマクロ指標である「経済成長率・インフレ率・財政収支・経常収支」を比較します。
最初に経済成長率(実質GDP成長率)の比較です。
上記でも触れましたが、リーマンショック時でも2%前後の成長率を維持したオーストラリアの安定性が光ります。
ただし、2014年以降はニュージーランドの方が高い経済成長率となっている期間が多くなっています。
世界各国の実質GDP成長率の推移はこちらを参照:世界の実質GDP成長率(経済成長率)推移【1991年以降】
次にインフレ率の比較です。
少しイメージと異なるかもしれませんが、どちらかというとオーストラリアの方が高いインフレ率であった期間が長くなっています。
金利水準はニュージーランドの方が高いので、インフレ率もニュージーランドの方が高いイメージがありましたが、そうではないようです。
購買力平価の理論ではインフレ率が高いと通貨が弱くなるので、この点から考えるとニュージーランドに軍配が上がります。
さらに金利も高いため、実質金利(名目金利一インフレ率)はニュージーランドの方が上回ることになります。(ニュージーランドの方がインフレに対して強めの引締めスタンスということになります)
購買力平価は為替レートの長期的なトレンドを見る上で重要で、実質金利は為替レートの短中期的な分析において非常に重要です。
- 購買力平価と実質金利についての詳細な説明はこちらを参照:為替レートの予想・分析は実質金利差・購買力平価を活用
購買力平価と実質金利の観点で考えると、投資するには豪ドルよりNZドルの方が良さそうです。
次に財政収支の比較です。
こちらもニュージーランドの方が良い結果となっています。
ニュージーランドは2010年代後半も財政黒字を継続しました。
ただし、両国とも名目GDPに対する政府債務の比率は低水準である為、当面、財政に関してはそれほど注意する必要はないと思います。
最後に経常収支の比較です。
経常収支においてはともに赤字ですが、特に近年、オーストラリアが大きく改善しています。
ニュージーランドの経常赤字の水準はやや気になる高さです。
経常収支は為替レートに大きく影響を与えることもあることから、NZドルにとっては最も大きなリスク要因といえそうです。
また、いずれにしても、両国とも海外から直接投資・証券投資によりお金を呼び込む必要がある国です。
そういう点では海外から資金を呼び込めるような魅力を維持することが重要です。
豪州とニュージーランドのその他マクロデータ比較
上記で比較した「経済成長率・インフレ率・財政収支・経常収支」以外のマクロデータを比較します。
まず、為替レートを分析する上で比較的重要といわれる外貨準備高は両国ともそれほど多くありません。
2018年時点でオーストラリアが538億ドル、ニュージーランドが176億ドルです。
豪州とNZドルにとって外貨準備高はそれほど重要なポイントにはなりません。
- 世界各国の外貨準備高についてはこちらを参照:世界各国の外貨準備高ランキングの変化(1990年・2005年・2020年)
下記にオーストラリアとニュージーランドの基礎データ比較を一覧で掲載します。
両国とも移民を積極的に受け入れていることから、人口は今後も長期的に増加していく見通しです。
1人当たりGDPがある程度高い水準まで上昇しているので、人口を安定的に増加させることは経済成長においても重要と考えられます。(名目GDP=1人当たりGDP×人口)
- オーストラリアとニュージーランドの移民数や総人口に対する移民比率はこちらを参照:国別の移民数ランキングと移民比率
また、貿易面では両国とも中国との関係が深い点が共通しています。
共に中国が最大の輸出国となっています。
このように共通点が多いことも、通貨の推移が似た動きになる要因と言えそうです。
ちなみに、両通貨とも「資源国通貨」と呼ばれることが多いですが、これは正確ではありません。
オーストラリアは鉄鉱石・石炭など資源を多く生産・輸出していますが、ニュージーランドは乳製品など農作物が中心です。(おそらく、資源と農作物は同じような動きになることも多いのでこのように扱われるのだと思います)
豪ドルとNZドルの比較まとめ
上記をまとめると、極端な違いはなさそうですが、投資をする上ではNZドルの方が合理的と言えそうです。
特にポイントになるのは相対的にインフレ率が低いも関わらず、金利が高いという点です。
購買力平価と実質金利の両面から、NZドルが有利となります。
NZドルの弱点は経常収支の赤字が大きい点です。
経常収支は為替レートに大きく影響を及ぼすこともあるので、これが心配であれば豪ドルとNZドルに分散するのも1つです。
また、情報面では豪ドルの方が充実おり、取引コストも若干、豪ドルの方が低くなります。