こちらのページでは「WTI原油価格(スポット価格)」の長期チャートと変動要因を掲載しています。
ご覧頂くことで『原油価格の歴史』が全て把握できます。
WTIはウエスト・テキサス・インターミディエイト(West Texas Intermediate)の略で、米国西テキサス地方で産出される高品質な原油のことを指します。
原油価格の代表的な指標としてWTIの他に、北海ブレントや中東ドバイ原油もありますが、その中でもWTIは先物市場での取引量が圧倒的に多くなっています。
原油の国際取引で一般的に使われる取引単位はバレルで、1バレル=約159リットルとなります。
ちなみに原油ETFへの投資を検討している方は注意してください。
先物のロールコストの問題でなかなか思ったようなパフォーマンスになりません。
- 詳細はこちらを参照:原油(コモディティ)ETFは先物のロールがあるので注意が必要
まずは原油価格の長期チャートです。
下段の方では10年ごとに区切ったチャートを掲載し、変動要因を細かく掲載しています。(変動要因は箇条書きで記載しています)
WTI原油価格の超長期推移(1970年~現在の大きな流れを把握)
※1970/1-1983/4:economic magic.comデータより作成
※1983/5-:bloombergデータより作成
※先物価格ではなくSPOT価格のデータ
- オイルショック前の1970年代前半は1バレル=3ドル台であったが、第一次オイルショックで1バレル=10ドル台、第2次オイルショックで1バレル=約40ドルまで上昇した
- 1バレル=約40ドルに到達した1980年以降は長期間に渡り1バレル=10ドル~30ドルのレンジ内での動きとなり、再度1バレル=40ドルに到達するのに2004年までかかった
- その後大きく上昇し、2008年7月には過去最高の1バレル=147ドルまで上昇した。(上記チャートでは月次データで作成している為、1バレル= 140ドルまでの上昇に見えるが、日時データでは147ドルまで上昇した)
- 2020年4月には1バレル=18ドルまで下落(先物は一時マイナス圏まで下落)したが、2022年6月には1バレル=120ドル台まで上昇した
- 原油価格は需要面・供給面の両方からの影響により変動する
- 需要面:グローバル景気の良し悪し
- 供給面:OPECの増産・減産、米国シェールオイルの開発動向、再生エネルギーの拡大
- 以前は「需要面が先進国」「供給面はOPEC」が主役となっていたが、2000年代以降は需要面で新興国の地位が上昇、供給面ではシェール革命により米国の地位が上昇してきた。
- また、地政学的リスクの高まりで原油価格が急上昇するケースもある(1990年8月イラクのクウェート侵攻、2003年3月イラク戦争開始など)
ここからは10年ごとにチャートを分割して変動要因を細かく確認していきます。
WTI原油価格の歴史を詳細に解説【10年毎チャート】
WTI原油価格推移と変動要因(1970年代)【2度のオイルショックが発生】
- 1970年代は2度のオイルショックが発生(詳細は下記を参照)
第一次オイルショック
- 1973年10月6日に第四次中東戦争が勃発。これをうけて10月16日にOPECに加盟の湾岸産油6力国は原油公示価格の引き上げと原油生産の削減、イスラエル支援国への禁輸を決定。さらに12月には翌1974年1月より原油価格を2倍に引き上げると決定した。
- 1バレル=3ドル~4ドル台であった原油価格は1バレル=約10ドルまで上昇した
エネルギー源を中東原油に依存しながら急速に工業化が進んでいた日本は大きな影響を受け、1974年のインフレ率(消費者物価指数)は20%を超えた。トイレットペーパーの買い占めなどの社会現象も発生した。
第二次オイルショック
- 1979年OPECが原油価格の値上げを発表したことと、当時サウジアラビアに次ぐ世界第2位の産油国であったイランが原油生産を大幅に減少させた(イラン革命)ことで原油価格が大きく上昇
- 短期間で1バレル=15ドルから30ドル以上まで上昇した
WTI原油価格推移と変動要因(1980年代)【長期下落トレンド】
- 1970年台後半からの原油価格急上昇はイラン・イラク戦争が始まった1980年の夏ごろまで続いたが1980年4月~7月の1バレル=約40ドルをピークに下落をはじめ、長期の下落トレンドとなった
- 1986年3月には1バレル=約10ドルまで下落した(逆オイルショック)
- これまで原油価格の調整役としてサウジアラビアが減産を行うことで原油価格低下を回避していた。その結果、サウジアラビアのシェアが大幅に低下し、これに耐え切れなくなったサウジアラビアが調整役を放棄し、新しい価格決定方式を採用。増産を行い欧米市場でのシェア拡大に乗り出したことで原油価格は大きく下落した。
WTI原油価格推移と変動要因(1990年代)【湾岸戦争が発生】
- 1990年8月のイラクのクウェート侵攻から湾岸戦争に発展
- 1バレル=20ドル前後で推移していた原油価格は短期的に大きく上昇し、1990年9月に1バレル=約40ドルを付けたが、上昇トレンドとはならず、すぐに1バレル=20ドル前後まで下落した
- 1997年に入り原油価格は一段と下落し、1998年12月に1バレル=10.7ドルまで下落した。
- 1997年7月のタイバーツ暴落を皮切りにアジア各国に波及したアジア通貨危機は世界経済にも大きな影響を与えた。これにより原油の需要が減少したことが下落の要因と考えられる。
- 原油価格低迷に対応するため、1998年3月からOPECは減産政策をはじめた。これにより1999年から原油価格は上昇を始めた。
WTI原油価格推移と変動要因(2000年代)【過去最高値の1バレル=147ドルまで上昇】
- 2003年3月イラク戦争開始により原油価格は1バレル=39ドルまで上昇
- 2004年以降、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)をはじめとする新興国の経済成長から原油需要が拡大
- さらに原油価格の上昇を見込んだ投資目的の資金が原油先物市場に大きく流入したことが上昇を加速させた
- 2000年代初頭の1バレル=20ドル台から、2008年7月には1バレル=147ドルまで上昇した(原油価格の過去最高値)
- その後、米国のサブプライムローン問題やリーマンショック(2008年9月)の影響で世界経済は急激に減速した。
- 原油価格は大幅に下落し、2008年12月に1バレル=30ドルまで下落した(上記のチャートは月次データのため40ドルまでの下落に見えるが、日時データでは約30ドルまで下落している)
- その後、急回復し2009年12月には1バレル=約80ドルまで上昇した
WTI原油価格推移と変動要因(2010年代・2020年)【シェールオイルの生産拡大により米国の生産量が世界一に】
※2020年以降のデータも当面こちらに追加していきます
- 2010年代に入ってからもリーマンショック後のリバウンドは続き、2014年の中頃までは1バレル=100ドル前後で推移していた
- 2014年7月頃から原油価格は急速に下落を始め、1バレル=100ドル前後だった原油価格は2016年2月には1バレル=約26ドルまで下落した。(上記チャートは月次データで作成しているため2016年2月は33ドル前後となっているが、日次データでは26ドル前後まで下落した)
- この間、世界のマクロ環境は中国経済の減速等が懸念されたがそれほど悪い環境ではなく、ここまで大きく下落した最大の要因は供給面と考えられる。
- 特に米国のシュールオイルが技術革新により生産コストの低下に成功し、一貫して増産したことが最大の要因と考えられる。
- 2010年ごろは1バレル=80ドル程度と言われたシェールオイルの生産コストは、年々低下し2016年には30ドル台でも採算が取れる場所もあると言われるようになった。
- 2014年~2016年に原油価格が下落した際は、当初80ドルを割れればシェールオイルの生産・開発がストップし供給が減るため、再度価格は上昇すると言われていたが、実際には生産コストが低下したことでほとんど減産にならず、原油価格は上昇しなかった
- 2017年の中ごろから産油国の協調減産効果もあり上昇基調となった
- シェールオイルの生産拡大により、2018年に米国の原油生産量が45年ぶりに世界一となった
- 2018年10月から2018年12月にかけて1バレル=80ドル前後から40ドル前後まで急落した
- 2019年に入りリバウンドし、4月には一時66ドル台まで上昇したが、2019年は概ね1バレル=50ドル〜60ドルでの推移となった。
- 2019年9月に米国が月次ベースで初めて純輸出国となった(約70年ぶり)
- 原油市場における中東の存在感が低下するとともに、米国の政治・外交面における中東の優先度も低下した
- 2020年2月以降、新型コロナウイルスの影響により世界的な景気悪化懸念が広がる中、2020年3月、OPECプラスの協調減産協議が決裂し、サウジアラビアとロシアが共に増産を表明したことで原油価格は急落。2020年4月末には1バレル=18ドル前後まで下落した。
- WTI原油スポット価格は上記の通りだが、同じ時期、WTI原油先物価格は史上初めてマイナスとなり、2020年4月20日には1バレル=−37.63ドルまで下落した。先物価格がマイナスとなって理由はこちらを参照:WTI原油先物がマイナスの日に何を買えば儲かったか/ETFはマイナス、ロシアルーブル等はプラス
- その後、原油価格はリバウンドし、2021年1月には1バレル=50ドル台を回復、2021年12月には70ドル台まで上昇した
- 2022年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で原油価格は一段高となった。2022年6月には1バレル=120ドル台まで上昇したが、その後は下落基調となった。
ここからは原油に関連する各種情報を掲載しています。
原油価格に影響を受ける資産クラス
ハイイールド債・バンクローン
- エネルギーセクターのデフォルト率上昇懸念から価格が下落する傾向
- 参考:フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド/米国ハイイールド債の投資環境
- 参考:バンクローン・オープン/バンクローンの投資環境
MLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)
- MLPのキャッシュフロー自体は原油価格が下落してもほぼ影響を受けないが、イメージから原油価格が下落するとMLPも下落することが多い
- 参考:米国エネルギーMLPオープン(エネルギー・ラッシュ)
資源国通貨(ロシアルーブル・カナダドルなど)
- 産油国の通貨(特にロシアルーブルやカナダドル)は原油価格との相関が高い
- 逆にインドルピーなど非資源国の新興国通貨は資源価格の上昇がインフレ率上昇に直結し通貨の下落要因となるため逆相関となる
WTI原油価格とブレント原油価格が逆転した理由を解説
原油価格は産出地域によっていくつかの種類があり価格も異なります。
冒頭でも触れましたが、主要なものは下記の3つです。
- 米国のWTI原油
- 北海ブレント原油
- 中東ドバイ原油
その中でもWTI原油は最も高品質であるため、過去、長期間に渡り最も高い価格で推移してきました。
しかし、2011年頃から北海ブレント原油やドバイ原油の価格を下回るケースが増えています。
下記では見やすくするためにWTI原油と北海ブレント原油のみの比較チャートを掲載します。
(ドバイ原油は北海ブレント原油に近い価格推移となっています)
特に2011年中頃~2014年中頃は北海ブレントが大きく上回っています。
2011年9月末はWTI原油79.2ドルに対して北海ブレント原油104.26ドルとかなり大きな差となりました。
その後もかい離は縮小していますが、北海ブレント原油がWTI原油を上回る現象は続いています。
このようにWTI原油と北海ブレント原油の逆転現象が発生した理由はいくつか考えられますが、最も大きいのは米国のシェールオイルの存在です。
2010年代に入り米国のシェールオイルの生産が急増し、米国の原油生産量は2010年~2018年で約2倍となりました。
2018年には米国の原油生産量が45年ぶりに世界一となっています。
2019年9月には米国が月次ベースで初めて純輸出国となりました。
このように、米国における原油の需給が以前より緩和されていることで、WTI原油価格が相対的に安くなっていると考えられます。
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