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知識・ノウハウ(投信)

毎月分配型の米国リート投信は良くないのか?

こちらのページでは2017年頃に話題となった「毎月分配型投信」「米国リート投信」についての議論について忘備録として掲載しています。

当時は「米国リート(一部グローバルリート)」のファンドが残高ランキングの上位を独占していたことから、「毎月分配型投信」と「米国リート」がセットで扱われ、悪く言われることが多くありました。

下記では「米国リート」は投資対象として悪い訳ではないという点と「毎月分配型投信」もニーズがあって内容を理解していれば問題ないという点について解説しています。

まず最初に日経新聞の参考記事です。

【参考記事】2017/1/28 日経朝刊

板挟みの毎月分配投信 金融庁「資産形成にそぐわない」 運用難でも根強い個人需要

毎月分配型の投資信託を運用・販売する金融機関が揺れている。運用難で分配金の原資が得にくくなり、金融庁は長期の資産形成に向かない同投信の現状を疑問視する。一方、分配金に対する個人投資家のニーズは依然大きく、板挟みの状況だ。

「毎月分配型でないこと」。与党が昨年12月に決定した2017年度の税制改正大綱。金融庁の森信親長官の肝煎りで創設が決まった積み立て型の少額投資非課税制度(NISA)は、投資対象の要件にこう明記した。

「やはり減配か」

 顧客の元本を取り崩す場合も多い毎月分配型の投信は、金融庁の目指す安定的な資産形成にそぐわないとの意思表示だ。

金融庁の姿勢を待つまでもなく、毎月分配型投信は曲がり角にある。

「やはり減配か」。仕事始めから間もない今月5日。アセットマネジメントOneは「新光US―REITオープン」の分配金を約4年ぶりに減らすと発表した。純資産残高が約1兆5000億円規模と国内2位の投信の決定に業界で驚く関係者はいなかった。

背景にあるのが運用難だ。米長期金利上昇で借り入れコストが高まると、不動産投資信託(REIT)の収益は圧迫される。米REIT指数は昨年11月、8カ月ぶりの安値をつけた。運用収益が目減りすれば、元本の一部を取り崩して分配金に回す手法は行き詰まる。国内最大級の残高を持つフィデリティ投信の「フィデリティ・USリート・ファンドB」が分配金引き下げを決めたのは、昨年11月だった。

毎月分配型投信の残高上位に並ぶのは、米国など海外のREITで運用するタイプだ。

人気の要因は元本の取り崩しを含む見た目の利回りだ。分配金を、基準価額と呼ぶ投信の価格で割った利回りが年率20%超のものも多い。超低金利下で売れ筋の乏しい証券会社や銀行にとって、海外REIT型は安定した手数料収入が期待できる「最後のとりで」(楽天証券経済研究所の篠田尚子氏)だった。

「とりで」は崩れようとしている。投資信託協会は17日、昨年12月に海外REIT型(国内外含む)から1686億円の資金が流出したと発表。流出規模は2年1カ月ぶりの大きさだった。

16年は海外REIT型を筆頭に毎月分配型の3分の1が減配し、販売現場は説明に追われる。大和証券の川根浩志投資信託サポート部副部長は「適正な分配金水準が望ましい一方で、毎月分配への顧客ニーズは依然強い」と板挟みに悩む。

「分配金として元本の一部が払い戻されることもあると理解している人は37%」。金融庁が昨年の金融審議会で示した資料には、こんな数字が載った。ある金融庁幹部は「半分以上の顧客は元本を食いつぶしていると知らずに購入しており、大いに問題だ」と話す。

取り崩し構わず

 株式投信の分配金総額は年間5兆円規模。日本の投信残高が90兆円台で伸び悩む一因は分配金の多さにあり、これが金融庁のいら立ちを招く。

一方、「元本から取り崩していると説明しても、高分配を好む年配の顧客は多い」(東海東京証券の古田英彰商品企画部長)という。毎月分配型を持つ個人の多くは高齢者で、年金制度への不安を抱える層と重なる。

毎月分配の投信を保有する安井孝子さん(84)は「2カ月に1度の年金と違って毎月の生活費の足しになるので重宝してきた」と話す。

世界のREITを中心に運用するスイスのヘッジファンド、B&Iキャピタル。同社のクリスチャン・ベルナスコーニ氏は「運用益がないのに高分配を続けるのは理解できない」と、日本の投信市場の「ガラパゴス」ぶりに驚く。同氏が日本の個人マネー動向を注視するのは、各国のREIT市場に与える影響がそれだけ大きいためだ。

バブル崩壊後に長引いた株価低迷や超低金利、将来不安による生活防衛、高齢者への資産の偏在――。毎月分配型投信が日本でブームになった背景には根深い問題が潜む。「ポスト分配金」時代に資産形成の中核となる投信はまだみえない。

日経新聞記事の内容まとめ

  • 金融庁は元本を取り崩して分配金利回りを高めている毎月分配型投信を問題視
  • 金利上昇などの影響もあり、米国REIT指数は昨年11月、8ヵ月ぶりの安値をつけた
  • 運用難により、投資信託の運用残高で国内1位、2位であるフィデリティ・USリート・ファンド、新光US―REITオープン(ゼウス)が分配金を引き下げ
  • 2016年12月は海外REIT型から約2年ぶりとなる1686億円の資金流出
  • 分配金の中に元本部分が含まれていることを知らないケースも多くこれは問題であるが、一方、年金感覚で高い分配金を受け取りたいニーズも高い

最近、日経新聞で何度も取り上げられており、またかという感じもありますが、海外リート(米国リート)のファンドは日本国内で最も残高が多く、分配金引下げによる投資家への対応も必要と考えられます

以前にも毎月分配型について書いたことはありますが、今一度、ポイントを整理させていただきます。

毎月分配は是正すべきか

これは簡単なようで非常に難しい問題です。

毎月分配型という仕組み自体は特に問題はないと思います。

問題があるとすれば、分配金が高すぎるという点と、分配金の中に元本部分が含まれていることを知らないケースがある点になります。

分配金に元本部分が含まれていることを理解していないことが問題なのは言うまでもありません。

しかし、分配金が高すぎる点は健全とは言えないかもしれませんが、必ずしも問題があるとは言えないと思います。

上記の日経新聞記事にあるように年金感覚で受け取りたいというニーズもそれなりにあるようですので、一部元本の切り崩しであることを理解していただければ問題ないと思います。

つまり、投資家に正確な理解をしてもらっていないことが問題であり、毎月分配という仕組みや分配金利回りが高い点は特段問題ではないと考えられます。

また、高い分配金については考え方を変えるとメリットにもなります。

一般的に「投資は買いよりも売りが難しい」と言われます。

売り時というのは本当に判断が難しいです。

順調に値上がりし、もっと儲かると思っていたらショックが起こり、元本を下回ってしまうことがあるかと思えば、逆に、かなり儲かったので売却したら、そこから大暴騰したりします。

その点、元本部分も含めて毎月分配で受け取るということは毎月、一部解約をしていることと同じで、売りのタイミングの時間分散を図れることになります。

適正な分配金利回りとは

適正な分配金の考え方は大きく2つに分けられます。

米国リートを例にとると、1つは米国リートの配当利回りを基準にする考え方です。

現在、米国リートの配当利回りは4%前後ですので、投信の分配金利回りも4%にするか、もしくは信託報酬を控除した2.5%程度にすることになります。

個別のリートを購入しているのと同じ感覚で最もシンプルな考え方になります。

ただし分配金の水準はそれほど高くはならない点がネックになります。

2つめの考え方は、利益の部分を分配金として出す考え方です。

イメージとしては基準価格10,000円を超える部分を毎月、分配として出すことになります。

よって米国リート市場の動向と、為替レートの動向により、毎月の分配金が大きく上下にブレることになります。

さらにより問題となるのは、設定後、米国リートが下落した場合や、為替が円高になった場合に基準価格が10,000円を下回り、長期間分配金が出ないということも考えられます。

配当利回りを基準にすると分配金利回りが低く、運用実績を基準にすると分配金の変動が大きくなり、どちらも中途半端な感じは否めません。

ベストな考え方は上記の中間的な考え方だと思われます。

現在問題になっているのは20%~30%といった分配金利回りの水準が高すぎるからであると思われますので、分配金利回りを6%~8%程度にすればいいのではないかと思います。

期待収益率の考え方を使い、少し論理的に説明すると、米国リートの長期的なキャピタルゲイン(成長率)を年率5%程度と仮定し、これに配当利回り4%を加え、信託報酬1.5%を控除すると、5%+4%-1.5% = 7.5%となります。

これであればある程度長期的に分配することも可能になりますので、7.5%の分配金利回りぐらいがちょうど良いのではないでしょうか?

米国リートが悪いわけではない

毎月分配型投信に関する議論において、問題があるのは上記の通り、投資家に正確な情報を理解してもらっていない点です。

どうしても米国リートの投信残高が大きいので、「毎月分配型=悪=米国リート」といったイメージになりやすいですが、米国リートが悪いわけではありません。

記事にあるように金利が上昇すると調達コストが上がり、直接的にはリートにとってマイナスになりますが、通常、金利が上昇するということは米国の景気も好調で賃料や不動産価格も上昇しますので、トータルではプラスになると考えられます。

実際、過去の金利上昇局面で米国リートは大きく上昇しています。

米国リートはこれまで長期的に右肩上がりで、他の資産クラスと比較してもトップクラスのパフォーマンスとなっています。

もちろん過去、大きく上昇しているからバリュエーションが高いのではといった懸念も考えられますが、多くの投資家は「米国の不動産市況が大きく下落するのであれば、他のものを保有していても下がるから同じだろう」という思いで投資しているのではないでしょうか。

これは言い換えると、米国という国家、もしくは米国政府やFRBに対する信認の高さといえます。

米国リートに投資する投資信託の残高が大きいのは分配金に踊らされているだけではなく、米国政府やFRBに対する信認の高さが要因とも言えそうです。

実際に米国リートは長期的に右肩上がりで推移してきました。

米国リートファンドの保有者に対するフォロー

これを読んでいるのが金融機関の方の場合、米国リートに投資している投資家は非常に多いのでフォローするポイントを整理しておく必要があります。

まずお伝えすべきは、下記の2点です。

  1. 分配金に一部元本が含まれている点
  2. 米国リート市場の状況(米国リートに関する内容はこちらを参照してください:新光US-REITオープン(ゼウス)/米国リートの投資環境・最新の見通し)

米国リート市場の状況をお伝えする際、特に「分配金が下がる=米国リートはだめ」ではないことを説明する必要があると思います。

これらを理解した上で、米国リートに投資し年金感覚で受け取りたいのであれば現状のまま保有すればよいと思います。

一方、米国リートには投資したいが分配金が必要ない方は、新光 US-REIT オープン(年1回決算型)【愛称:ゼウスⅡ】のような年1回決算の投信に乗り換えると良いでしょう。

現在、毎月分配型投信で残高が多い商品は、ゼウスⅡのように年1回決算の商品も設定していることが多くなっています。

関連ページ

分配型投信については下記も参考にしてください。

投資信託の残高(ランキング)の変遷はこちらをご覧ください。



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