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知識・ノウハウ(債券)

劣後債の期限前償還見送りについて考える(スタンダードチャータード銀行等)

2016年11月13日

こちらのページでは2016年11月に劣後債の期限前償還(ファーストコール)をスキップしたスタンダードチャータード銀行の劣後債を取り上げ、劣後債(CoCo債)の期限前償還見送りについて分析しています。

下段に掲載している日経新聞の参考記事も併せてご覧いただくことで、さらに理解が深まります。

また、過去に期限前償還(ファーストコール)をスキップした、劣後債(CoCo債)の事例も掲載していますので参考にしてください。

スタンダードチャータード銀行の劣後債は経済合理性から償還されないのは当たり前

まず、スタンダードチャータード銀行劣後債が期限前償還をスキップしたことで、当時のハイブリッド証券市場に悪影響が出たかというと、まったく影響はありませんでした。完全に個別銘柄の固有の問題です。

同様の問題点を内包している銘柄は影響を受けている可能性がありますが、インデックスベースで見る限り影響はありませんでした。

また、下段の記事内で一部の投資信託も影響があったと書かれていますが、これは全てスタンダードチャータード銀行劣後債を組み入れていた投信で当該劣後債が下落した分だけ投信も下がっています。

商品によっては25%近く当該劣後債を組み入れていたようです。(これは運用会社に問題があります)

そして、記事でも指摘していますが、劣後債の条件をみれば償還されない可能性が相応にあることは明白です。

【スタンダードチャータード銀行劣後債の条件】

  • 発行日:2006/12/8
  • 期間:永久債(期限前償還は2017/1/30、2027/1/30、2037/1/30、2047/1/30の4回のみ
  • 利率:2017/1/30まで6.409%、2017/1/30以降3MLibor+1.51%
  • 資本性:2017/1/30までAT1、2017/1/30以降Tier2

2016年11月時点、スタンダードチャータード銀行がTier2劣後債を発行すると10年4.7%程度の水準です。

これに対して上記劣後債の2017年1月30日以降のクーポンは3MLibor+1.51%ですので、2016年11月の金利水準を当てはめると2.4%程度となります。

もちろん固定金利と変動金利の違いはありますが、これだけ調達コストが違うと経済合理性から償還しないということがある程度は予想できそうです。

今回の劣後債は2006年12月というクレジット環境が最も良かったタイミングで発行されておりスプレッド(上乗せ金利)がかなり低い条件となっています。

2006年12月の米国金利は短期金利も長期金利も5%程度という特殊な環境であり、当初約10年は固定金利でスプレッドが1.5%程度という低いレベルでもクーポンは6.409%という好条件になりました。

2016年11月は3ヶ月Liborが当時よりも大幅に低く0.9%程度であり、スプレッドと合計しても2.4%程度となります。

クレジット環境がきわめて良いタイミングで劣後債を購入すると、繰り上げ償還(ファーストコール)時のクレジット環境が悪化した場合、コールされない可能性が相応にあるということを覚えておく必要があります。

つまり、劣後債の繰り上げ償還は、償還しなかった場合のクーポンと新たに債券を発行した場合のクーポンを比較し、「経済合理性」により判断されるということになります。

ただし、極端な条件の悪化でなければ、今後の劣後債の発行にも影響するのでファーストコールで償還される可能性もあります。

【参考記事】2016/11/5日経朝刊

劣後債崩れた暗黙の了解英銀が期限前償還を見送り

劣後債市場で、ある「事件」が波紋を広げている。英スタンダードチャータード銀行が1日、2006年に発行した劣後債の初回の期限前償還を見送ったのだ。経営状態が極端に悪化した場合を除き、初回の期限前償還はこれまで暗黙の了解だった。この慣例が崩れて「償還されないリスク」が浮き彫りになり、関連する金融商品は大きく値下がりしている。

スタンダードチャータードが期限前償還を見送ったのは、06年に発行した償還期限のないドル建ての永久劣後債。償還して同様の社債を発行するよりコストが安いのが見送りの理由だ。新興国経済の不振で収益が低調なスタンダードチャータードにとっては至極、当たり前の選択ではある。

だが、債券市場の受け止め方は違った。同銀の永久劣後債の初回の期限前償還は17年1月に設定されており、市場はこのタイミングでの償還を前提にしていた。つまり、投資家にとっては「10年債」だったのだ。

慣例に背けば市場の信頼を失い、次回以降の社債発行時の調達金利が跳ね上がるリスクがある。このため、金融機関は目先のコストより市場での評判を優先してきた。

それだけに、償還見送りは「大きな驚き」(大手生命保険会社)だった。発表を受け、この劣後債の価格は3日時点でそれまでに比べて約14%も下落した。英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドや仏クレディ・アグリコルなどの類似の債券にも売りが広がった。

日本の投資家にとっても「対岸の火事」ではない。スタンダードチャータードの債券を保有する「パインブリッジ金融機関ハイブリッド証券ファンド2014―07」や「グローバル金融機関ハイブリッド証券ファンド2013―11(三菱UFJ国際投信)」など複数の投資信託の基準価格が急落した。

さらに「国内の劣後債市場にも冷水を浴びせかねない」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)。期限前に償還される可能性のある劣後債の発行は今年に入って急増し、すでに3兆円を超えた。継続的に劣後債を発行する必要性が低い事業会社を中心に「コスト削減効果を優先し、期限前償還見送りに動く可能性もある」(りそな銀行の杉浦公彦氏)という。

超低金利の昨今では、どうしても利回りの高さに目が向かいがち。投資家は劣後債のリスクを適正に評価できているのか。もう一度、冷静に見直してみる必要がありそうだ。

劣後債(CoCo債)の繰上償還(ファーストコール)がスキップされた事例

みずほFG米ドル建て永久劣後債(2009年スキップ)

  • 発行日:2004年1月
  • 償還条件:2009年4月ファーストコール、以降3ヶ月毎にコール可能
  • 2009年4月のファーストコールをスキップ
  • 2009年3月に初回コール見送りを発表した際、95前後で推移していた債券価格は81まで下落しました。
  • 2010年4月に全額、早期償還(もちろん債券価格は100)されました

クレディ・アグリコル米ドル建て永久劣後債(2017年スキップ)

  • 発行日:2007年5月
  • 償還条件:2017年5月ファーストコール、以降10年毎にコール可能
  • 2017年5月のファーストコールをスキップ
  • 2017年3月に初回コール見送りを発表した際、同時にECB(欧州中央銀行)の承認を条件に公開入札により債券価格95での買入れを公表しました。初回コール見送り発表前の債券価格は96前後で、もし買入れを公表しなければ80前後までの下落も想定されましたが、95までしか値下がりしませんでした。
  • つまり、経済合理性から100で償還させることはできないが、95であれば償還しても問題ないマーケット環境になっていたということになります。(債券が95~96前後で取引されていたことからも分かります)
  • この永久劣後債は2019年までにほぼ大半が買入れにより償還されました
  • 本件はファーストコールで償還を期待している投資家が多いことを理解し、単なるスキップではなく、価格は多少低くなるが資金が返ってくるプランを提供したことは評価されて良いと思います。
  • クレディ・アグリコルの早期償還見送りについてはこちらもご参照ください:クレディアグリコル 永久劣後債 期限前償還見送り

サンタンデール銀行ユーロ建てCoCo債(2019年スキップ)

  • 発行日:2014年3月
  • 償還条件:2019年3月ファーストコール、以降3ヶ月毎コール可能
  • クーポン:当初6.25%、
  • 2019年3月のファーストコールをスキップ
  • 2020年3月12日にコールにより償還
  • 当時の金利状況を勘案し、経済合理性の観点からファーストコールをスキップしましたが、ファーストコール日以降も3ヶ月毎にコールが可能であったこともあり、債券価格はほとんど下落しませんでした。

ドイツ銀行米ドル建てCoCo債(2020年スキップ)

  • 発行日:2014年5月
  • 償還条件:2020年4月ファーストコール、以降5年毎にコール可能
  • クーポン:2020/4/30まで6.25%固定、2020/4/30以降は5年スワップ+4.358%
  • 2020年4月のファーストコールをスキップ
  • 本件はドイツ銀行固有の問題と考えられがちですが、そうではありません。2020年2月から拡大した新型コロナウイルスの影響でマーケットがリスクオフとなったことが要因です。実際、ドイツ銀行は当該債券の償還原資となる同じ発行金額(12.5億ドル)のCoCo債を2020年2月14日に発行しています。よって、本件のスキップは既に代替の債券を発行していることから、スプレッドの拡大が要因ではなく、ベース金利(5年スワップレート)の低下が要因です。マーケットのリスクオフにより国債利回りやスワップレートが急低下しました。5年スワップレートは0.6%前後まで低下したことで、2020年4月30日以降のクーポンが5%未満になる見通しとなりました。そのため、経済合理性を考慮した結果、ファーストコールをスキップという判断になりました。

上記以外にもAIG、ウェルズ・ファーゴ等も劣後債のファーストコールを見送ったことがあります。

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