こちらのページは2013年から2016年の間に銀行が保有していた国債が日銀に大きくシフトした点について忘備録として掲載しています。
日銀の国債買い入れにより債券価格は上昇(利回りは低下)し、銀行は保有金額を減少させることで将来の金利上昇リスクを低くすることができました。
逆にそのリスクは日銀が抱えることになりました。
まず最初に日経新聞の参考記事から紹介します。
2016/12/25日経朝刊
【参考記事】銀行保有の国債半減 黒田日銀の3年7カ月で、運用環境厳しく
民間銀行が持つ国債が減っている。日銀の黒田東彦総裁が就任した2013年3月と比べるとほぼ半減した。長短金利を操作する新たな政策の枠組みのもと、金利は低い水準で推移しており、かつては資金運用の主軸であった国債での運用は一段と難しくなっている。
11月の米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、国内金利は上昇(債券価格は下落)しているが、銀行の運用姿勢は変わっていないとみられる。
日銀は13年4月に異次元緩和を導入し、14年10月にはその拡大に踏み切った。年50兆円だった国債購入ペースを年80兆円に増やした。その後、16年1月にマイナス金利の導入を決定、同9月に長期金利の0%程度への操作を開始したが、国債の買い入れはほぼ同じペースで続けている。
銀行の国債保有額が大きく減少
黒田日銀による大規模な国債買い入れによる金融緩和が始まって以降、銀行が保有する国債の残高が半減しました。
これは金利水準が低く、償還した国債の再投資を見送ったことと、マイナス水準まで金利が低下し債券価格が大幅に上昇したことで益出しの売却を行った銀行が多かったことによります。
三菱UFJFGの国債保有残高は2013年3月の48.7兆円から2016年9月の24.4兆円まで減少しており、デュレーションは3.9年となっています。
同様に三井住友FGの国債保有残高は2013年3月の26.2兆円から2016年9月の7.4兆円まで減少しており、デュレーションは2.8年となっています。
同じくみずほFGの国債保有残高は2013年3月の30.6兆円から2016年9月の10.3兆円まで減少しており、デュレーションは2.7年となっています。
3メガバンクはそれぞれ国債の保有比率を大幅に下げており、デュレーションも短めとし、金利上昇リスクに対する対応を行っています。
数年前までは金利が上昇した際の銀行のリスクに対して問題視されていましたが、上位の通り、現在では少なくともメガバンクはある程度対応済みとなっています。
また、値上がりした(利回りの低下した)国債を売却することで利益を計上することもできました。
このようなことができたのもひとえに日銀のおかげです。
- デュレーションについての詳しい説明はこちらを参照してください:社債のスプレッドとデュレーションについて
日銀は国債発行残高(政府短期証券含む)の約4割を保有 / 金利上昇リスクも
2016年12月時点で、日銀は大規模金融緩和の一環として、年間80兆円ペースで国債の買い入れを行っています。
その結果、政府短期証券を含めた国債発行残高約1,100兆円に対し、日銀の保有額が約400兆円となっています。
当面は今のペースで保有額が増えていくことになりますので日銀の保有割合が50%を超えるのも時間の問題です。
このような極端な政策のおかげで日本の銀行は利回りが低い(債券価格が高い)債券の保有比率を下げて、将来の金利上昇リスクに対応することができました。
しかし、言い換えるとそのリスクは全て日銀が抱えていることになります。
将来、金利上昇が起こった場合、日銀の損失はかなり大きいものとなります。
現在、日銀が保有する国債のデュレーションは7年程度と推計されますので、仮に市場金利が1%上昇した場合、400兆円×7% = 28兆円の損失となります。
デュレーションに近い残存年数の7年国債は2016年時点で0%近辺ですが、1%への上昇は普通に考えられる範囲といえます。
日銀は国債以外でも日本株ETFやJ-REITの買い入れを行っており、日本株は簿価ベースで11兆円、J-REITは3500億円保有しています。
日本株やJ-REITの保有が日銀にとって大きなリスクと言われることが多いですが、実際には一見安全に見える国債の方がリスクは高いかもしれません。
アベノミクス・日銀金融緩和は失敗してもインフレ・円安・株高?
上記のようなリスクが顕在化してくると、中央銀行の信任の低下が問題となる可能性があります。
現在の貨幣制度では金本位制でもないので、中央銀行の信任を裏付けとして通貨が発行されています。
日銀の信任が低下した場合、円が大きく売られる可能性があることになります。
通常は通貨が売られて、極端なインフレが発生し、経済は低迷ということになりますが、日本の場合は輸出企業が多く円が売られることで、かなり企業業績は良くなることも考えられます。
また、インフレに関しても、もともとデフレ体質の国なので新興国のように何十%のインフレのようにはならない可能性が高いです。
日銀は最悪のケースとして、ここまでのシナリオを想定して今の政策を行っているのではないかと言う専門家もいます。
アベノミクスや黒田日銀の政策が成功しても失敗してもインフレ・株高・円安になるのであれば資産の一部をリスク商品(株式・外貨)にシフトすべきではないかと思います。
- リスク性商品(株式・外貨)の分析ポイントはこちらを参照してください:「投資信託」 一覧